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移行その⑪
以下は以前に書いたあとがき的なもの
<あとがき>
伊集院様にお礼を兼ねて捧げたもの。
中尉視点は難しいですな。
んでもって、馬鹿な男(成人)達。
勝手にやってろって言いたくなりますよね。
(2004.4.16)
(2010.5 移行)
視線の先改め争奪戦
お茶を持って執務室へ入ると、そこにはにらみ合う二人がいた。
ここ最近は事件もなく、平和で静かな東方指令部。
しかし、今現在私が居る場所はそうもいかないらしい。
東方指令部では数年に一回、この季節に下士官の昇級試験がある。
この国の軍階級は准尉以下が下士官であり、それ以上が士官・佐官に相当する。少尉以上は
功績などが認められて昇級する仕組みだが、下士官の場合は数年毎に行われる試験で昇級
できることもあり、今回はその中の曹長に昇級するための試験が行われる。
今年の試験も何人かの軍曹が勉強のためにそこを利用しているので、それ以外の人は自然と
司書室から追い出される形になる。
なのでイーストシティに居るときは必ずそこに居座るエドワード君も、例に漏れず追い出されていた。
+++
司書室の前で本を抱えているエドワード君を見つけた私は、彼に声を掛けた。
「こんにちは、エドワード君。君もやっぱり追い出されたの?」
「こんにちわ、中尉。追い出されたっていうか、まぁ居たら行けない雰囲気があって・・・」
「それを追い出されたって言うのよ。あれは仕方ないわね、みんな必死だもの。」
一般的に軍階級は、自分や同僚のように士官学校を出て准尉の地位から始まる者もいれば、
一般選考で三等兵から入る人もいる。中には自分の上司が持つ国家錬金術師という資格が
付いたことによりいきなり少佐から始まる者もいるが・・・それは希なことであるので、ともかく
士官学校を出ていない人にとって、この数年に一度行われる試験はとても重要なことなのである。
まぁ国家錬金術師は少佐相当の地位があるが、それが目当てで資格を取ったわけではない
彼にとって、今勉強している人達における試験の重要性はいまいち認識できないようであった。
それも仕方がないことである。
「仕方ないんで、とりあえず本だけ借りて出てきたんだけど・・・どこか読める場所ないですか?」
「そうねぇ、談話室はある意味喫煙所になっているから、本を読む環境ではないし・・・あぁだったら、
執務室の客用ソファーで読む?あそこなら大丈夫よ。」
情勢が不穏な時期だと執務室は忙しくて騒がしくとても本を読む環境にはないが、ここ最近は
平和なので今なら静かに本を読むことが出来るだろう。
そう思い、私は彼を執務室へと連れて行った。
+++
執務室へ入ると、上司は食事休憩で居なく代わりに同僚のハボック少尉がいた。
「よぅ、大将。珍しいじゃねーか、どうしたんだ?」
「こんちわ、少尉。あー実は、図書館が占領されててさ。」
「あぁ、アレでか。なるほどね。」
いつも様に気さくな挨拶をした少尉はエドワード君をソファーに案内し、彼もその横に座った。
彼等はしばらく談笑をしていたので、私は彼等に声を掛けず給湯室へと向った。
その理由は―――
多分・・・・・少尉は、エドワード君のことが好きだから。
本人から直接聞いた訳ではないが、彼の目線の先にはいつもエドワード君がいる。
そして少尉が彼を見るその視線には、愛しさのようなものが感じられる・・・
人の恋路は邪魔しないのが鉄則である。
しかし、その先どうなるのかはしっかりと見届けさせて頂くつもりだが。
-*-*-*-*-*-
そしてお茶を持って執務室へ戻ると、
そこにはにらみ合う二人がいた。
休憩から戻ってきたのであろう大佐とエドワード君の横にいる少尉。
エドワード君は彼等がにらみ合っている理由が分からず首を傾げていたが、
・・・・・・何?
あぁ、そうか。
・・・・・大佐もなんですね。
身近に三角関係が(しかも全員、男)作られた事がなかったので、ここに連れてきたのは間違いで
あったみたいだが、今更言っても仕方がない。
それに着いた時には既ににらみ合いの決着もつき、どうやら大佐が勝ったようだった。
(あの目が据わった大佐の笑みを見る限り、十中八九弱みを握っているのであろう)
私がそう思っている内に大佐は少尉とは反対側のエドワード君の横に座り、いつもながらの挨拶で
彼の読書の邪魔をしている。
エドワード君もしばらくはそれに反応して言葉を(時には拳を)返していたが、もう片方側にいる
少尉に止められ大佐はやもなく中断。
勝ち誇っている少尉の笑顔を見て大佐は眉間にシワを寄せている。
( まるで子供のケンカそのものね。)
ため息がこぼれるのをぐっと堪え、このまま立ちつくしているのもいい加減疲れてきたので
テーブルにお茶を置いた。
「どうぞ、エドワード君。少尉。」
「あ、ありがとうございます。」
「どうもーっす。」
そう言うと二人は渡した紅茶に口を付けた。
「大佐のは今、お持ちしますので。」
「あぁ、頼むよ。ありがとう、中尉。」
そうして私が再びこの部屋を出ようとすると、エドワード君が声を掛けてきた。
「中尉、たまには大佐に行かせたら?そうしないと大佐太りそうだし。」
「ほほぅ、鋼の。なかなか言うじゃないか。」
「へへん、事実だろ~。」
「上司に向かってそう言う物騒な事を言うとは。」
「悔しかったら、塞いでみろよ。」
「あぁ、ではそうさせてもらおうかな。」
などと、大佐の方がより物騒なことを言い出したので一声掛けようと後ろを振り向いた時、
「物騒な口はこうだ!!」
「あ。」
「んっっ!!んー!!!」
「あぁっ!、大佐っー!!」
「・・あら。」
大佐は自分を見上げてきたエドワード君の顎をぐいっと持ち上げると、小尉や私がいるのにも
関わらず目の前でキスを、いや、文字通り口を塞いで見せた。
・・・・・とても、とても長く。
「ん~。どーだ、有言実行。見事に塞いでみせたぞ。うむ、満足。」
そう言ってやっと彼を解放した大佐は目的(あれは絶対にキスだと思う)を達成した満足感の為か、
とても幸せそうな笑顔であったのだが・・・
「な、何が満足だぁぁぁぁ!!」
「ぐはぁっっ!」
大佐はエドワード君から右ストレートを見事顔面にもらい倒れ込んだ。
まぁ当たり前、自業自得なので仕方がないことですが。
一方、小尉はその隙にエドワード君をどさくさに紛れて抱きしめるように自分の腕の中に
包みこんでいるようだ。
が、
悶えながらもそれを視界の端に捕らえていた大佐が、少尉の脛に蹴りを入れ、彼も脛を抱えて
倒れ込むこととなった。
執務室には現在、痛みのために呻いている大人二人と荒い呼吸をしている少年一人。
そしてお茶用のトレーを持ち、ため息をつく自分。
ここ最近は事件もなく、平和で静かな東方指令部。
しかし、目の前の三人が一緒にいる所では静かという言葉は無縁のようである。
終