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ストロベリームーンを見た2人は激しい恋に落ちる。

そんな月夜の伝説がこのアメストリスの世界にあったとしたら、

そこにいる彼等はどんなことを思うのだろうか。

 
  Ⅰ Side:L

 Ⅱ Side:J

 Ⅲ Side:R

 Ⅳ Side:E



【注意】
これは赤石路代先生が描かれたストロベリームーンの設定が鋼の世界にあったとしたら・・・
と、いう妄想から派生したお話です。

(2010.5.7 修正)



ストロベリームーン

 

 

 

 

Side:L

 

 

 

窓辺に立つ黒髪の女性。

彼女の目線の先には、朱く光を放つ大きな満月。

人間の間では、今のように見える月をストロベリームーンと呼ぶ。

そして、ストロベリームーンを二人で見たカップルはその瞬間、見た相手と

激しい恋
に落ちると言われている。

彼女にそれを教えた青年は、その月が見える夜に彼女と出逢い、

その月が出た夜に
生涯を閉じた。




共に月を見た彼女の手によって・・・

 


 




「朱い月。あれから何回見たことかしら。」

 

 

 

 

 

 

 

       +++

 

 

 

 

計画の為に初めて人が住む街へと侵入したのは、彼女がその見かけの年齢よりも

数年若かった時。

年をとらない彼女は、生み出されたときからその容姿だった。

ある程度の知識を得て自分の父親から言われた初仕事は、小さな街に暴動を起こさせ

大量の血を流させること。

その為に彼女は生み出され、今まで知識を頭に入れてきたのだ。

そう、それ以外にやるべきことなんてない・・・

 

 

 

 

 

夜の街に入ると、賑やかな声が聞こえる。見ると、オープンバーで酒を飲み交わしている

人々が目に入る。

小さいといってもサウスシティから列車で30分位に位置しているこの街は、

軍人と民間人
との間に軋轢もなく、そして夕方から深夜にかけてはこの地方名産のワインが

どこのバーに
入っても格安で飲めるという。

働く人々にとってここは、まさに仕事帰りに立ち寄るべき所である。

 

彼女はその街を練り歩いた。

彼女程の美貌なら、酒が入っていてもいなくても男性がすぐに声を掛けそうだが、

今の彼女は自分の気配を希薄にしているため気づかれることはない。

いちいち人間に声を掛けられてなんていたら、下見の妨げになる。

 

目的を実行・成功させるには、よく観察して目標を定めなければならない。

幸いこの街は軍に支配されておらず、町長的な役割を担っている人物がいる。

街の人もその人物を慕っているようだ。


ならば軍人と民間人との間に軋轢をおこさせ、その人物を先頭に争いを起こさせればいい。

よし、これでいこう。彼女は方法が決まると、口元に薄く微笑を浮かべた。

 

 











 

その時―

 

 

 

 

「こんばんは。いい夜ですね。」

 

 

目の前に彼女に声を掛けた男がいる。

 

 

「!?」

 

 

彼女はひどく動揺した。

気配を希薄にしている為、よほど自分の事を意識して見ようとしなければ、

人間には
分からないはずだった。

事実、先程まで誰一人として彼女に声を掛けた人物はいない。

しかし彼女に声を掛けた男は
はっきりとこちらを見ている。

偶然ではなく明らかに自分は彼に見えているのだ。こうなってしまっては仕方がないと、

彼女は見られてしまった動揺を隠し、男に言葉を返した。

 

 

「・・・ええ。月もあんなに朱く綺麗に浮かび上がっていて・・。」

 

 

そう言って彼女は、妖艶と言ってもいいくらいの微笑みをその顔に浮かべた。

彼女の容姿は人間の男を魅了し堕落させる力を持つ。

それは彼女に与えられた名前を象徴するかのように。

この時の彼女はまだ実際にその能力を使用したことは無かったが、知識と本能で

それを
知っていた。

そのうち動揺が治まると彼女に冷静さが戻りはじめる。

 

 

今、自分の姿をこの男に見られたからといっても、計画が妨げられることはない。

それに自分には、この容姿とそしてもう一つ武器がある。

いざとなればそれらを使って障害を排除すればいいだけだ。

 

 

この考えに行き着き、彼女はますます笑みを浮かべる。

失敗はあり得ないと確信したからだ。

そんな彼女の考えなど知るよしもない男は彼女に話し始めた。

 

 

「今晩みたいに朱く大きく見える月を『ストロベリームーン』と言うらしいですよ。

 そして、その月を二人で見たカップルは激しい恋に落ちるそうです。

 貴女はどう思いますか?その話。」

 

「どうなのかしらねぇ・・・あら、それはもしかして誘われているのかしら?」

 

「どうでしょう?その噂通りにこの後、僕と激しい恋に落ちてくれるのなら

 是非ともお誘いしますがね。」

 

 

金髪に金褐色の瞳を持つ彼は優雅に微笑んだ。彼の瞳は彼女の父親に似ている。

そう思い瞬間見とれた彼女だったが、すぐに正気に戻ると微笑みを返す。

 

 

「ウフフ・・・とても嬉しいけれど残念だわ。私にはやるべきことがありますので、

 そのお誘いは辞退させていただきますわ。」

 

「・・そうですか、それは残念。・・・では、これならどうでしょう?

 『また逢ってはいただけますか?』」

 

 

彼は彼女の左手を取ると、その手の甲に唇をあてる。

それは遠い昔の儀式の様であり、未来での挨拶の様な行為だった。

そんな空間の中、彼女は彼の流れ落ちる前髪を眺めながら答えた。

 

 

「そうねぇ、時間があればいいわ。」

「本当ですか?ありがとうございます。」

「えぇ。」

「よかったぁ。」

「あの、そろそろ私、行かなくては・・・」

「あ、すみません!お止めしてしまって・・。それでは失礼します。」

「えぇ、さようなら。」

 

 

彼はそう言うと彼女が来た道の方へ進んでいった。

彼女は彼の背中を見送り自分も彼が来た道へ向かおうとしたが・・・

その時、彼が後ろから再び声を掛けた。

 

 

「言い忘れていました。僕達は必ずまた出逢いますよ。ストロベリームーンの夜に。

 ストロベリームーンを見た二人は、その月によってお互いが遠く離れていても

 引き寄せられるそうですから。   それではまた逢う日まで。」

 

 

今度こそ彼は去っていった。

 

 

 

・・・・・・。

彼女はその言葉を聞いていたが、信じはしなかった。

彼女は自分の置かれている立場をちゃんと理解していたから。

彼女にはやるべきことがあり、それ以外には何も必要が無くて・・・

その為、2日もすると彼の事自体を忘れていた。

彼女はあの夜以降、考えてた計画を着実に進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       +++

 

 

 

 

 

 

一年もすると軍と街とは一触即発状態に陥り、そしてついに先月、内乱が勃発。

あとはそのままの流れに任せればいい。

一度動き出したものは止まることなく、多くの人間の血がこの地に流れるだろう。

自分の果たす仕事は終わりだ。

 

彼女は屋根の上から飛び降り、来た時と同じ様に気配を希薄にして街から出て行こうとした。

初めて来たときの賑やかさはもうない。

人の気配すら数えるぐらいしか感じない。

彼女は自分の仕事をやり遂げた実感を得る。それはとてつもない喜びを与えていた。





その気持ちを抱えたまま、街の外へ出ると道は月明かりだけになる。

見上げるとこの街に来たときと同じような朱い月が出ている。

 

 

 

 

そういえばと、彼女は唐突に思い出した。

あの時に出逢った彼は自分達はまた必ず出逢うと言っていた。

しかし街は内乱状態であって、彼女は今夜ここを去る。

彼がこの街に住んでいたらそれどころではないだろうし、他の街に住んでいても

交通規制が敷かれていてこの街には来られない。

これではどうやっても会えないだろう。

 

どうやらあの話は、ただの迷信と言うことになった。

まぁ、元々約束を守るつもりもなく、目的が達成された今になってそのようなことを

考えて
いても仕方がないのだが、頭上の月のせいか頭から離れない。




可笑しなものだと思ったとき、

 

 


 

 

 

「やっぱり、逢ってしまいましたね。」

 

 

 

 

 

目の前に、あの時と同じように彼がいた。












違うのは、彼の着ている服がこの国の軍服だったことと、

左手には錬成陣が描かれた青い
大剣がにぎられていた。

彼女はまた彼に驚かされ、そして彼と彼の持つ大剣を見たときに直感した。

 







彼は敵であると。

 

 


「あの時はわざとだったのかしら?」

「・・・なにがでしょう?」

「・・・まぁいいわ。貴方、錬金術師なのね。」

「えぇ、同僚なんかは『青剣の錬金術師』なんて言ってくれてますがね。私の名前は・・・

 あぁ、言わなくてもいいですよね。」

「そうね。どちらかが死に逝くときに餞として言いましょう。」

「そうですね。」

「あぁそうだわ、私が勝ったら聞きたい事があるの・・」

「いいですよ、僕もありますから。」

「じゃあ敗者の捧げ物はそれね。」

「わかりました。・・・それでは。」

 

 

彼は剣を構えると、一気に間合いを詰めてきた。一回で決着をつけるために。

彼女も前へと出た。そして隠し持っていた物を引き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那―

 

 

 

 

 

 

勝負はついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の長く伸びた爪は彼の腹部を貫いていた。血が滴って彼女の手を緋色に染める。

一方彼の剣は、彼女の胸の入れ墨を貫き青白く光っている。彼女の血を浴びて・・・

彼女は自分の身体を見るとぽつりと一言。

 

 

「あぁ、一回死んじゃったわ。」

 

 

そう言って彼の身体から爪を引き抜き、自分の身体から大剣を引き抜く。

するとすぐに傷がふさがった。抜かれた剣は光を失い、地面に刺さる。

腹部から彼女の爪を抜かれた彼は、地面に片膝をつくと彼女を見上げる。

 

 

「・・・名前を教えていただけますか?」

「えぇいいわ、ラストよ。無名さん。」

「へぇ、ぴったりだ。」

「あら何に?」

「今の僕の状況にも、貴女の容姿にも・・・ね。」

「そうね、本当に。・・ねぇ、質問してもいいかしら?」

「・・・生きている限り、どうぞ。」

 

 

彼はそういうと、地面に仰向けになった。

本気で死に向かう瞬間まで質問に答える気でいるようである。

彼は再び彼女を見ると、目で質問を促す。


彼女は、一番気になっていたことを最初に質問した。

 

 

「初めて逢った晩、なんで貴方だけは私の姿を捉えることが出来たのかしら?」

 

「・・・あれは、簡単です。私は、貴女が街に入ってくるところからずっと

 見続けていたからですよ。それに月の光に照らされている美貌が、いきなり

 見えなくなったのに気づかないほど、野暮ではありませんよ。」

 

 

腹部に致命傷があるのにもかかわらず、彼は穏やかに落ち着いて答えていた。

彼女は次の質問をする。

 

 

「では、今日は何故ここで待っていたの?」

 

「それは・・・勘が働いたというか・・今夜はストロベリームーンだったし、

 此処にいれば何故かは分かりませんが、絶対逢えると。」

 

「軍人として来た理由は?」

 

「はは・・・情けない理由ですが、そうでもしないと交通規制に引っかかるので。」

 

「それは嘘ね。」

 

「・・・はい。貴女がこの暴動を裏で引いてると分かりまして。それの抹殺に招集

 されたんですが・・・貴女を殺すわけにも、貴女の秘密を他人に知られるわけにも

 いかないので、それを知った奴らは・・・死んでます。僕が殺しました。」

 

「でも、貴方は本気で私を殺そうとしていたわ。」

 

「・・・僕が生きていたら、その内に貴女の仲間が僕を殺しに来るでしょう?

 秘密を知っている唯一の人間だから。・・・それならば、いっそのこと

 貴女の手に掛かりたかった・・それだけですよ。」

 

「なぜ?」

 

 

 

 

彼はそこまで言うと、夜空を見上げた。頭上には相変わらず朱い月が輝いている。

数秒して彼は月に微笑み、その後彼女に向かって微笑んだ。

 

 

「言ったでしょう?ストロベリームーンを見た二人は恋に落ちると。」

「私は落ちていないわ。」

「・・・・・ではその頬を落ちる雫は、なんですかね?」

「!?」

 

 

 

 

その時、彼の右手がゆっくりと彼女の雫を拭った。

代わりに、彼の緋色の血が彼女の頬につけられる。

彼は拭った物を手のひらに握ると、愛おしそうに口付けた。

 

 

 

 

 

 

「・・・どうやら、僕の思い違いでした。・・僕の返り血が飛んだようですね。

 あの月は、人間の判断基準を鈍らせます。」

 

「・・・・・・。」

 

「『ラスト』という名前が似合う女性に、『涙』なんて無いですよね。

 あるのは・・微笑に冷笑、後は冷酷さですか?・・・まぁ、涙なんて物を見つけたら

 僕が冥土に持って行きますね。」

 

「・・・・。」

 

「・・・・。」

 

「・・・えぇ、そうね。お願いするわ。」

 

 

彼女は艶やかに微笑み返した。その微笑を見ると彼はにっこりと笑い。

 

 

「お願い・・聞いてもらってもいいですか?」

「なにかしら?」

「僕の最後のキスは貴女がいいんですが・・・ダメですかねぇ?」

「いいわ。これは私の最初のキスよ。」

「ありがとうございます。光栄だなぁ。」

「そう・・。じゃあ、さようなら。」

「さようなら。」

 

 

彼女が口づけを終えると、彼はもう目を開けることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       +++

 

 

 

 

 

 

 

何十年後

 

 

 

 

 

 

窓辺に立つ黒髪の女性。

彼女の目線の先には、朱く光を放つ大きな満月。

 

 

「朱い月。あれから何回見たことかしら。」

 

 

彼女の顔には妖艶な微笑みが浮かんでいる。

あれ以後も彼女が涙を流す事は一度もない。

何十年と生きてきて、冷笑と冷酷さには磨きがかかった彼女。








しかしあの日以降、彼女は朱い月を一人で見ることにしている。

 

 

 

 

 

 

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